2012年御翼1月号その4

ヨットでニューヨークからオーストラリアへ向かって   シルバーウッド夫妻

 不動産投資家でカトリック信者のジョン・シルバーウッド夫妻は、ビジネスに成功するものの、思春期を迎えた長男、長女が親に反抗的になり、困っていた。そこで、2003年、家族の絆を取り戻そうと、4人の子ども全員と共に、ヨットでニューヨークからオーストラリアまで、2年間の航海に出た。船上で午前中はホームスクーリングをし、午後はフィッシングやダイビングをして過ごす。寄港地では様々な文化に触れたりして、楽しんでいた。
 ところが、1年もたつと、狭い船内では喧嘩が絶えず、家族の思いはばらばらになる。特に当時15歳だった長男ベンは、父親とは口を利かなくなった。ある晩、オートパイロットで航行中、タヒチから650kmの距離の岩礁に、ヨットが乗り上げてしまう。コンパスの故障なのか、地図が間違っていたのか、いまだに原因は不明である。父ジョンは、座礁した衝撃で倒れてきた重さ1トンのマストでひざの骨がくだける大けがを負い、そのまま足はマストに挟まれ身動きできなくなった。妻と子どもたちでマストをどかそうとしてもびくともしない。ジョンは声に出して、家族の安全と、悔い改めの祈りをする。このとき妻は、イエスの弟子たちが、荒波にもまれる船の中で恐怖におののいているとき、イエス様が風と荒波とを叱りつけ、静めると、「あなたがたの信仰はどこにあるのか」と言われたことを思い出す。そして、子どもたちと祈り始めた。特に、妻は夫に対しても、自己中心的な態度をとっていたことを悔い改めた。そして、「今夜命を助けてくださったならば、必ずこの体験を意味のあるものにします」と神に申し上げた。すると、彼女の心は平安になる。長男のベンは、父と共に祈り、自分が思春期ゆえに反発ばかりしていたことを悔い改めた。依然として座礁したヨットに荒波は打ち寄せ、船体は大きく揺れ続けた。しかし、祈りの中で家族が親密になり、お互いの思いが分かるくらいの一体感があった。そして、長男ベンが言った。「お母さん、さっきまでとても怖かったけど、今は不思議と平安があるんだ。まるでクリスマスの日のように、真の平安を感じる」と。
 ヨットの遭難信号は米国西海岸でキャッチされていたが、悪天候のため場所が特定できず、硬直状態が夜通し続いた。浸水した船はいつ岩礁から波に流され、海底へと沈むか分からない。父ジョンは、いよいよ自分を置いて、家族に救命ボートで逃げるようにと叫ぶ。するとベンが、父親を置いてゆくわけにいかないと、動くはずのないマストに手をかけた。皆もそれに続くと、奇跡が起こった。大波によって船体が揺られ、衝撃でマストは父の足の上から外れ、夜明けには家族全員がヘリコプターで救出された。この事故でジョンは片足を失ったが、家族全員の命が守られたことに比べたら、小さな代償だと言う。何よりも、多くの人々に助けられ、愛され、そして助け合い愛し合う家族が与えられていることを感謝できるようになった。そして、こんなに大きな事故に遭わなくとも、大きな愛という恵みは、周囲に溢れていることに気づいてほしいと記している。
 善を行おうとしても親に反発ばかりしていた長男のベンは、悔い改めればイエス様が赦してくださることを知っていた。それゆえ、危機の中で心を神に向けたとき、親子、家族の絆は回復した。イエス様の十字架に現れた神の愛で満たされ、座礁したヨットの上で平安が与えられたのだった。キリストへの信仰が、愛の律法を完成させたのだ。ヨットの上でホームスクーリングしていたベンは、帰国後、米国海軍兵学校〈アナポリス〉に合格する。その後、視力が弱いために入校を拒否されるが、一般の大学で工学を学んでいる。

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